今日から、新しく入ったアルバイトの田中さんを指導することになった。私が社員になって、まだ半年しか経っていないのに、もう人に教える立場になるとは思わなかった。少し緊張しているが、店長から
「君ならできるよ」
と言われたので、頑張るしかない。\n\n田中さんは大学二年生で、接客の経験はほとんどないらしい。朝の打ち合わせのとき、店長が
「最初の一週間は、先輩の言うとおりに動いてください」
と説明していた。田中さんは真面目そうな顔で、何度もうなずいていた。\n\n
「では、まずレジの使い方からお教えしますね」
と私は声をかけた。お客様の前で間違えると大変なので、開店前のうちに基本的な操作を覚えてもらう必要がある。田中さんはメモを取りながら、
「ボタンが多いですね……覚えきれるかな」
と少し不安そうにつぶやいた。\n\n
「大丈夫ですよ。最初は誰でもそうです。私も入ったばかりのころは、注文を聞いただけでパニックになっていましたから」
と笑って答えた。実際、自分の新人時代を思い出すと、今でも恥ずかしくなる。先輩に何度も同じことを聞いてしまい、迷惑をかけてばかりだった。
\n\n開店してしばらくすると、常連のお客様がいらっしゃった。
「いつもの、お願いします」
と言われて、田中さんは戸惑っていた。
「メニューにない注文だ」
と思ったらしい。私は小さな声で
「ホットコーヒーのMサイズですよ」
と教えた。田中さんは慌てて
「かしこまりました。少々お待ちください」
と頭を下げた。\n\nお昼の混雑が落ち着いたあと、休憩室で田中さんに声をかけた。
「初日にしては、よくできていましたよ。お客様に対する態度も丁寧でしたし」
田中さんはほっとした表情を見せて、
「ありがとうございます。でも、まだ分からないことばかりで……」
と答えた。\n\n
「分からないことがあれば、いつでも聞いてくださいね。一人で悩むより、その方がずっと早く成長できますから」
私はそう言いながら、自分自身にも言い聞かせていた。教える立場になって初めて、先輩たちがどれほど親切に接してくれていたかが分かった。\n\n夕方、店長が
「田中さん、初日お疲れさま。鈴木さん、指導ありがとう」
と声をかけてくれた。私は
「いえ、こちらこそ勉強になりました」
と答えた。本当にその通りで、人に教えるというのは、自分が学ぶことでもあるのだと感じた。明日からも一緒に頑張っていこうと思う。
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