拝啓 晩秋の候、貴財団におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は小生の拙い文筆活動に格別のご高配を賜り、衷心より厚く御礼申し上げます。\n\nさて、このたびは、由緒ある貴賞の候補者として小生の名を挙げていただきましたる段、まことに身に余る光栄であり、感激の至りに存じます。
選考委員各位の温情あるご推挙にあっては、作家として、これ以上の誉れはなく、まさに恐懼感激の極みにございます。\n\nしかしながら、熟慮に熟慮を重ねましたる末、誠に不本意ながら、今回のご推薦を辞退させていただきたく、この書状をしたためる次第にございます。読者諸氏、そして長年支えてくださった方々の温情なくしては今日の小生はあり得ず、その恩義は筆舌に尽くし難いものがございます。
されど、病を抱えし身にあって、この数年来、筆を執る気力も衰え、かつてのごとき作品を世に問うこと、もはや能わざる状況にございます。\n\n文士たる者、作品をもって評価を受くるが本分にして、過去の栄誉にすがりて受賞することは、小生の信条に照らし、決して許されざる所業でございます。若き才能あふるる新進作家の方々が綺羅星のごとく輩出しておりますこの時代にあっては、限りある賞の椅子は、これから日本文学を担わんとする次代の担い手にこそ譲るべきものと、切に考えております。
\n\n顧みますれば、小生が筆一本で生計を立て得ましたるは、ひとえに読者諸氏と出版関係者の皆様のおかげであり、感謝の念に堪えません。この栄誉あるご推挙を辞退申し上げることは、まことに心苦しき限りではございますが、何卒、右の趣旨をご賢察のうえ、ご寛恕賜りますよう伏してお願い申し上げる次第でございます。\n\n末筆ながら、貴財団のますますのご発展と、選考委員各位のご健勝を切にお祈り申し上げ、書中をもちまして辞退のご挨拶に代えさせていただきます。
\n\n敬具
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