夜半の冷気が庭先の草葉をそっと包みこみつつ、明け方には細やかな霜の結晶が一面に広がっていた。山里にあって、冬の夜明けほど静謐なものはない。物音ひとつしない空気の中、息をするたびに白い吐息がのごとく立ちのぼり、そのまま天に溶けていく。
軒先のつららはまだ目を覚まさず、薄墨色の空は東の端からゆっくりと藍に変わりはじめる。霜なくしてこの景色は成り立たず、寒さなくしてこの透き通る清らかさも得られない。すべてが凍てついているのに、そのこと自体が奇妙にあたたかく感じられるのは、なぜだろう。
昨日までの喧騒にひきかえ、今朝の山はただひたすらに黙している。鳥の声もなく、風の気配すらない。それでも耳を澄ませば、霜柱がかすかに割れる音、氷の下で眠る小川のささやきが、どこからともなく届いてくる。
そういった微細な音こそ、この季節でなければ聴くことのできぬ贈り物であろうと、ふと思う。かつての人々は、こうした冬の明け方をどのように過ごしていたのだろうか。囲炉裏の火を絶やさぬよう、夜通し薪をくべながら、家族の寝息に耳を傾けていたに違いない。
現代にあってこそ、私たちは暖房の恩恵を受け、寒さから隔てられて暮らしている。だがそれと引き換えに、霜の朝が本来もっていた荘厳さや、冷気そのものが語りかけてくるものを、いつの間にか失ってしまったのかもしれない。縁側に立ち、素足に木の冷たさを感じながら、私は庭を見渡す。
一面に広がる霜は、まるで天から降りてきた細やかな絹のごとく輝き、やがて朝日の最初のひとすじがそれを照らし出す瞬間、すべての結晶が一斉に七色の光を放つ。その光景は、ほんの数秒で消えてしまう。しかしその儚さであろうと、いや、儚いからこそ、心の奥深くに刻まれるのだ。
山里の冬は厳しい。しかし厳しさのなかにしか宿らぬ美しさというものが、たしかにある。
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