三月末、半年にわたる新商品の販売企画が、ようやく社内審査を通過した。
企画を立ち上げるにあたって、私はチームリーダーという立場を初めて任された。正直、不安だらけだった。営業部から異動してきたばかりで、商品開発の知識も乏しい。それでも、上司の期待に応えないわけにはいかない。
最大の難題は、部下の佐藤さんだった。入社三年目で、能力はあるものの、自信を失いかけていた。前任者との引き継ぎがうまくいかなかったらしく、資料の整理すら滞っている状態だった。
「佐藤さん、この市場分析の部分、一緒に見直しませんか」
ある朝、私はできるだけ柔らかく声を掛けた。
「申し訳ありません。手が回らなくて……」
「責めているわけではないんです。私も異動してきたばかりで、正直わからないことばかりで。だから一緒に考えたいんです」
彼女は少し驚いた顔をした。どうやら、これまで責められることには慣れていても、並んで考えようと言われたことはなかったらしい。
業務を通じて信頼を築くには、時間が掛かる。期限が迫っているにもかかわらず、私は急かさないよう意識した。焦らせれば、彼女はまた萎縮してしまう。それどころか、せっかく芽生えた主体性まで摘んでしまうだろう。
日が経つにつれて、佐藤さんの提案が少しずつ増えていった。「この競合比較、もう一案作ってみました」「こちらのほうが説得力があるかと」。自信が戻ってきたのが、表情からも伝わってくる。
審査当日、プレゼンを任せたのは彼女だった。
「大丈夫ですか。代わりましょうか」
と念のため声を掛けると、
「いえ、私にやらせてください。ここまで来たのは自分のためでもありますから」
と、静かだが確かな声で答えた。
結果は、条件付きではあるものの承認。改善点は残されたが、前に進む許可を得た。
会議室を出た廊下で、佐藤さんが頭を下げた。
「リーダー、本当にありがとうございました」
「お礼を言うべきは私のほうですよ。佐藤さんがいなければ、この企画は通らなかった」
本音だった。数字を追う日々の中で、人を育てる喜びというものを、私はこの半年で初めて知った気がする。
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