四月二十五日 曇りのち晴れ
妹がついに家を出た。大阪の会社に就職が決まって、この半年間、段ボールを少しずつ増やしつつ準備を進めていたものの、いざ当日の朝を迎えてみると、やはり胸の奥がざわついて落ち着かなかった。
朝六時半に起きて、玄関前に積まれた荷物の山を見た瞬間、なんだか現実味がなくて、しばらく呆然としてしまった。十八年間、毎朝その場所に妹の靴があったのに、今日からはもう無い。そのことに気づいた途端、涙が出そうでたまらなくなって、慌てて顔を洗いに行った。
母は朝から台所でおにぎりを握っていた。普段は口数の少ない人なのに、今朝はやけに喋る。「向こうは水が硬いらしいから、最初はお腹壊すかもね」「雨の日は窓閉めて出なさいよ」。ずっとそんな調子で、心配しているどころか、もはや娘を送り出すための儀式のようだった。母なりの愛情表現に違いない。横で聞いていた父も、新聞を読む振りをしながら、ページをめくる手が止まっていた。
妹本人はといえば、意外とけろっとしていた。「お姉ちゃん、泣かないでよ。月一回は帰ってくるから」と笑っていたが、そのわりに朝食には一切手をつけなかった。強がっているのが分かるものだから、こちらも上手く言葉が返せなくて、ただ「うん、うん」と頷くしか無かった。
十時過ぎに引っ越し業者のトラックが来た。荷物が次々と積み込まれていく様子を玄関先で眺めながらも、頭の中は子どものころの記憶で一杯だった。小学生の時に二人で同じ布団に潜り込んで怖い話をしたこと、中学で妹が反抗期になって三ヶ月も口をきかなかったこと、去年の夏に一緒に花火を見に行ったこと。思い出ばかりに引っ張られて、見送りの言葉が何一つ出てこない。
トラックが角を曲がって見えなくなった瞬間、母が静かに泣き始めた。父は何も言わず、ただ母の肩に手を置いていた。私も堪え切れずに涙が零れた。
夜、空になった妹の部屋を覗いてみた。ベッドだけが残っていて、やけに広く感じる。寂しい気持ちはあるけれど、それ以上に、ちゃんと巣立っていく妹を誇らしく思えてならない。距離は離れてしまったが、家族であることに変わりはない。そう自分に言い聞かせながら、今夜はゆっくり眠ろうと思う。
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