エレベーターという小さな箱の中では、誰もが無言の振付師になる。四人が乗っている最中に五人目が入ってくると、全員がほんの数センチだけ後ろへ下がり、視線は階数表示にぴたりと固定される。話しかける人はいないどころか、咳払いすら慎まれる。不思議なことに、見知らぬ他人とこれほど接近しているにもかかわらず、我々は互いの存在を懸命に無視するのである。
エレベーター内での礼儀は、明文化されていないものの、ほぼ世界共通らしい。扉の近くに立った者は、降りない階でも一度外に出て道を譲る義務を負う。狭い箱にしては、その規則は驚くほど厳密だ。誰も教わったわけではないというより、空気そのものから学んだと言ったほうが近い。
そして最も奇妙なのは、鏡である。多くのエレベーターには鏡が設置されているが、これは身だしなみのためというよりも、狭い空間を広く見せ、かつ他人と目を合わせずに済ませるための装置に違いない。鏡越しに自分の髪型を直すふりをしながら、実は隣の人の靴をそっと観察している、という経験は誰にでもあるはずだ。
面白いことに、この沈黙の儀式は、階が上がるごとに少しずつ緩んでいく。十五階建てのビルで十四階まで一緒だった見知らぬ二人は、最後の一階で突然「お先にどうぞ」と譲り合い、まるで長年の知人のように微笑む。三十秒前まで存在を無視し合っていた事実は、もう誰も覚えていない。
結局のところ、エレベーターとは社会の縮図なのかもしれない。我々は他人と近づきたくないわけではなく、近づき方を知らないだけなのだ。
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