金曜日の夜、終電の中で、佐藤は立ったまま窓の外を見ていた。仕事で疲れていたせいで、いつのまにか眠ってしまった。目を覚ましたとき、電車はもう知らない駅に止まっていた。慌てて降りたが、ホームにはほとんど人がいなかった。
時計を見ると、もう十二時を過ぎている。次の電車はないらしい。佐藤はため息をついて、改札を出た。
駅の前には、小さな商店街があった。ほとんどの店は閉まっていたが、奥のほうに、小さな灯りが見えた。近づいてみると、古いラーメン屋だった。ガラス戸の向こうに、白髪の店主が一人で座っている。
「いらっしゃい」と店主が静かに言った。
佐藤はカウンターに座って、しょうゆラーメンを注文した。待っているあいだ、店の中を見回した。壁には古い写真がたくさん貼ってあった。笑っている子どもたち、花火、海。誰の思い出だろう。
ラーメンが出てきた。湯気が顔にかかる。一口食べて、佐藤は思わず「あ」と声を出した。母が昔作ってくれた味に、よく似ていたからだ。
「お口に合いましたか」と店主が聞いた。
「はい、とても」と佐藤は答えた。それから、小さな声で「ありがとうございます」と付け加えた。
外に出ると、雨が降り始めていた。しかし、佐藤はもう急いでいなかった。タクシーを待ちながら、ゆっくり空を見上げた。知らない駅で、知らない店で、ふと昔の自分に会えた気がした。
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