夏祭りの夜、五歳の女の子が赤い風船を手に持って、母親と一緒に歩いていた。たくさんの人がいて、笛の音やたいこの音が聞こえた。女の子はりんご飴を食べたり、金魚すくいを見たりして、とても楽しそうだった。
「お母さん、あの風船、ほしい。」
「もう持っているでしょう。」
「ううん、もう一つ。」
「一つで十分よ。」
そう言いながら、母親は娘の手をにぎり直した。その時、急に風がふいてきて、赤い風船は空に飛んでしまった。女の子は泣き出しそうな顔で、空を見上げた。
「あ……。」
声が出なかった。風船はどんどん小さくなって、星の近くまで上がっていくようだった。女の子は泣きながら、風船を追いかけようとしたが、母親は優しくその手を止めた。
「大丈夫。風船はね、空のお友だちに会いに行ったの。」
女の子は少し考えてから、うなずいた。そばにいた古いおじいさんが、それを見ていたらしい。おじいさんは自分の青い風船を、そっと差し出した。
「これ、あげるよ。お嬢ちゃんの赤い風船の代わりに。」
「いいの?」
「いいんだよ。わしはもう十分楽しんだから。」
女の子はにっこり笑って、青い風船を受け取った。母親は何度も頭を下げて、お礼を言った。おじいさんはゆっくり歩いて、人ごみの中に消えていった。
帰り道、女の子は青い風船を空にかざしながら、時々笑った。彼女は少しずつ、知らない人にもやさしくできるようになると思った。空の上では、赤い風船がまだ飛んでいるらしい。
Tokenizing… (first load downloads ~17MB dictionary)