土曜日の朝、私は庭で花を見ていた。よく晴れた日で、空は青く、風が気持ちよかった。花壇の隅を見ると、昨日植えたばかりの小さな苗が倒れている。土もあちこち掘り返されていた。犬ではないらしい。たぶん猫だと思う。
昼ごろ、となりの山田さんが来た。山田さんは七十歳ぐらいのおばあさんで、いつも笑顔で挨拶をしてくれる。今日は大きな袋を持って、少し困った顔をしていた。
「あの、うちの猫が、また庭に入ってしまったみたいで。本当にごめんなさい」
山田さんはそう言いながら、何度も頭を下げた。私は急いで「大丈夫ですよ」と答えた。苗は少し倒れただけで、また植え直せる。
「これ、畑で作った野菜なんですけど、よかったらどうぞ」
袋の中には、トマトときゅうりと、大きなナスが入っていた。全部つやつやしていて、お店で売っているものより立派に見える。
「こんなにたくさん、いただけません」
「いえいえ、一人では食べきれないんです。もらってくれると助かります」
山田さんはそう言って、少し笑った。私も笑った。お茶でも飲んでいきませんかと聞くと、山田さんは少し考えてから、うなずいた。
台所でお茶を入れながら、山田さんの話を聞いた。旦那さんが去年亡くなって、今は猫と二人で暮らしているらしい。畑を作ったり、近所の人に野菜を配ったりして、毎日を過ごしている。
「あの子、さびしがりやで、よそのお庭にまで行ってしまうんです」
そう言う山田さんの目は、やさしかった。私は猫のことを怒る気がなくなった。
山田さんが帰ったあと、私はもらったトマトを一つ食べてみた。あまくて、少し塩の味がするようだった。夏の味だと思った。来週から、私も庭で少し野菜を作ってみようかと思う。山田さんに教えてもらえば、きっとうまくいくような気がする。
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