むかし、むかし、ある山のふもとに、一人の年取った木こりが住んでいた。名を太吉という。畑も財産も持たず、毎日山に登って薪を切り、それを町で売って暮らしていたそうな。
ある冬の朝のことだった。太吉はいつものように弁当を腰にさげ、雪の積もった山道を登って行った。風は冷たく、木々の枝はしんと静まりかえっていた。
昼になると、太吉は大きな岩のそばに腰をおろし、妻が作ってくれた小さな握り飯を取り出した。そのときである。岩のかげから、やせ細った子狐が、こちらをじっと見つめていた。毛は雪で濡れ、体は震えている。太吉はそれを見て、思わず手を止めた。
「お前も腹が減っているのだろう。」
太吉はそう言いながら、自分の握り飯を半分に分け、雪の上にそっと置いてやった。子狐は初めおそるおそる近づいてきたが、やがて勢いよく食べ始めた。食べ終わると、子狐は太吉の顔を見上げ、三度うなずくようにして、雪の中へ消えていった。
それから何日かたった、ある晩のことだった。太吉が小屋で眠っていると、戸を叩く音がする。開けてみると、誰もいない。ただ、戸の前に赤い布に包まれた物が置かれていた。中には、真っ白な米と、温かい焼き魚と、小さな金の粒が入っていた。
太吉は驚いた。「これはいったい、どなたの贈り物だろう。」
しかし、返事をする者はいなかった。ただ遠くの森の奥で、子狐の鳴くような声が、かすかに聞こえたそうな。
太吉はその米で粥を作り、村の貧しい子どもたちに分けてやった。金の粒は使わず、村の神社に納めた。そうして太吉は、昔よりずっと心穏やかに暮らしたという。
村人たちは言う。「人に優しくしたことは、いつか必ず戻ってくるものだ」と。
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