むかし、むかし、ある小さな浜辺の村に、トキオという正直な漁師が住んでいたそうな。トキオは毎朝、まだ暗いうちに舟を出し、夕方になると魚を持って帰ってくるという、真面目な男であった。村の人たちは「トキオさんの魚は一番新しい」と言って、いつも喜んで買っていた。
ある秋の夜のこと、海がとても静かで、月の光が水面に長く伸びていた。トキオが網を引き上げようとした時、不思議な声が聞こえてきた。それは人の声のようで、波の音のようでもあった。「私を、海に返してください」と、その声は小さく囁いた。
驚いたトキオが網を見ると、中には魚ではなく、光る小さな貝が一つ入っていた。貝は口を少し開けて、また「お願いです」と言った。トキオは怖くなったが、貝の声があまりに悲しそうだったので、思い切って海に返してやった。すると貝はくるくると回りながら沈んでいき、海の底から温かい光がぼんやりと広がった。
その夜から、トキオの網にはいつもより多くの魚が入るようになった。しかし彼は決して取りすぎなかった。「海から借りているだけだから、必要な分しか取らない」と村の人に話していた。ある日、隣の村の欲張りな男がその噂を聞きつけて、トキオの舟の後をつけてきた。
男はトキオが帰った後、同じ場所に大きな網を入れて、魚を全部取ろうとした。すると海の色が急に黒くなり、波が高くなって、男の舟を激しく揺らした。男は泣きながら、やっとのことで岸に戻った。
次の朝、トキオが浜に行くと、砂の上に小さな白い貝が並べられていた。それは「ありがとう」という形をしていたという。トキオはそれを家に持って帰り、神棚にそっと置いた。それからもトキオは長い間、必要な分だけを取り続け、村は静かに豊かになっていったそうな。
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