先月、父が「便利だから」と言って、台所に小さなスマートスピーカーを買ってきた。母は最初、「私にはそんな機械はいらない」と言っていたが、気づいたら毎日話しかけるようになった。
問題は、母の発音をスピーカーがうまく聞き取れないことだった。ある朝、母が「今日の天気を教えて」と言ったら、スピーカーは急に演歌を流し始めてしまった。どうやら「天気」が「演歌」に聞こえたらしい。母は笑ったり、怒ったり、しばらく機械と言い合いを続けていた。
次の日、母は料理をしながら「たまねぎの切り方を教えて」と頼んだ。するとスピーカーは、真面目な声で「玉ねぎを愛する方法を説明します」と答えた。父と私は台所で笑いすぎて、ご飯がのどに詰まるところだった。母は真っ赤な顔で「もう、この子は私をからかってばかりいる」と言った。
一番ひどかったのは先週のことだ。母が「電気を消して」と言ったつもりが、スピーカーは「伝記を読みましょうか」と聞き返してしまった。母がもう一度ゆっくり言い直したが、今度は家中の電気がついたり消えたりし始めた。結局、父がコンセントを抜くことになった。
それでも母は、この機械が好きみたいだ。「発音の練習になるから」と言って、毎朝話しかけている。小さな声で発音を直したばかりに、最近は少し東京のアナウンサーみたいな話し方になってきた。家族の会話より、スピーカーとの会話のほうが長い日もある。便利な道具のはずだったのに、いつの間にか、母の一番の話し相手になってしまったらしい。
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