毎朝六時、近くの公園に小さいおじいさんが来ます。名前はたぶん田中さんです。みんなが「パンのおじいさん」と呼んでいます。
おじいさんの手には、いつも古い紙のふくろがあります。中には前の日のパンが入っています。おじいさんはベンチに座って、パンを小さく切ります。それから、鳩にあげます。鳩は十羽ぐらい、足のまわりに集まります。
「この子たちは、私の友だちですよ」とおじいさんは言います。静かな声です。目が少し笑っています。
奥さんは五年前に亡くなりました。家に一人でいると、さびしくてたまりません。だから毎朝、ここに来ることにしています。雨の日も、雪の日も、休みません。
昨日、子どもが走ってきて、鳩がびっくりして飛んでいきました。おじいさんは怒りませんでした。「鳩も、子どもも、元気なほうがいいですから」と笑いました。
ベンチの横には、古いステッキがあります。手は少しふるえています。でも、パンを切る手はとてもやさしいです。七時になると、おじいさんはゆっくり立って、家に帰ります。明日もまた、同じ時間に来るでしょう。
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