寒い夜に仕事から帰ってくると、体の芯まで冷えていることがある。そんな夜、私はいつもうどんを作る。鍋にお湯を沸かしながら、冷蔵庫の中を覗いて、残っているネギや油揚げを探す。
材料を切ったり、出汁を温めたりしているうちに、台所の窓ガラスが少しずつ白く曇っていく。その変化を見るたびに、今日もなんとか一日を終えられたんだなと、静かに思う。うどんの袋を開けると、小麦のにおいがふわっと立ち上がる。
お湯の中に麺を入れて、菜箸でそっとほぐす。湯気に顔を近づけながら、出汁の味を小皿で確かめる。少し薄ければ醤油を足し、濃ければお湯を足す。
その調整の時間が、私にとって一番落ち着く瞬間かもしれない。丼に麺を移して、熱い出汁を上からたっぷりと注ぐ。刻んだネギを散らし、油揚げをのせると、黄金色のスープの上に小さな景色ができあがる。
湯気の向こうで、台所の電気が少しにじんで見える。最初の一口は、いつも少し熱すぎる。でも、その熱さが喉を通って胃に落ちていく感じがたまらない。
麺をすすったり、出汁をひと口飲んだりしながら、肩の力がゆっくり抜けていく。外の風がまだ窓を叩いているけれど、もう寒さは気にならない。昔、母もよく夜中にうどんを作ってくれた。
受験勉強で遅くまで起きていた私のために、台所で静かに鍋を温めてくれていた。あの時は当たり前だと思っていたけれど、自分で作るようになってから、あの一杯にどれだけの気持ちが込められていたかを、ようやく分かるようになった。豪華な料理ではない。
誰かに自慢できる味でもない。それでも、疲れた夜にそっと自分を温めてくれるこの一杯があるおかげで、明日もまた頑張れそうな気がしてくる。うどんを食べ終わって、空になった丼を見つめながら、私は小さく息を吐く。
幸せというのは、たぶんこういう静かな時間の中に、こっそり隠れているのだろう。
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